199X年、大学四年の夏。
僕はゼミの沖縄合宿に来ていた。
合宿といっても名ばかりで、実際のところは要するにバカンスだ。
前日夜にしこたま泡盛を飲んで酔いつぶれた僕は、爽やかな明るい朝のテラスカフェに似つかわしくない、二日酔いの体たらくをさらしていた。
この合宿の参加者の中には、同じゼミで同学年の彼女、M弓がいる。
そのM弓が、ホテルの白い階段を降りてきた。黄色いアンサンブルがよく似合っている。
「よぉ、M弓」
だるそうな格好のまま、僕はM弓を見つけて声をかけた。
「・・・知らない。」
普段はとても優しいM弓なのに、今朝はなんだかとても機嫌が悪い。昨夜、なんかあったっけ。
情けないことに、昨夜も僕の海馬は機能を停止していたようで、いっこうに思い出せない。
「なぁ、なんだよ。俺がなんかした?」
(続く)