今年の春から俺の責任で進めている開発案件。
10年前に作られた少々古めの業務システムを、仕様刷新してリニューアルするというプロジェクトだ。
いざ現行のシステムを眺めてみると・・・
さすがに10年前のシロモノなんで、そのUIは相応の年代を感じさせる。
システムの性格的に複雑な帳票を作成する機能が多いようで、Webブラウザで実現するための当時の苦労が随所で伺える。
(ライブラリの充実と進化、よいWebアプリケーションのケーススタディの増えた昨今ならば、もっとイージーかつスマートにできるだろうなと思う。)
UIだけじゃない。あとからあとから出てきた追加要件に振り回されたのか、データベースの設計も、機能の分割粒度などにもいびつな部分が散見される。
ともかく10年ごしのリニューアル案件ってことは、現行のシステムを軽く凌ぐ出来にならないといけないわけだ。
システム要件そのもののアップデート(この10年の間に顧客が十二分に議論検討済み)があるわけで、スタート地点は有利かもしれない。現行システムの問題点の多くは浮き彫りになっている。
だが、現行システムでできてなかったことをクリアするという命題の一部は、技術的に超高度なミッションとなってのしかかってくることを、俺は知っている。シンプルに難しいから、だ。そういうたぐいの命題は、実装技術だけでなく設計技術をもどん欲に要求してくることだろう。
でも、それすらもクリアできるだろうという自信が、ある。
理由はわからない。
ところで、10年前にこのシステムを設計したという人間を、俺はよく知っている。
大手SIer出身のシステムエンジニアで、当時の数えで28歳の若造だ。
本当にこのシステムが完成するのか、びくびくと不安を抱えながらプロジェクトを進めたのだとか。恐らくは経験不足だったのだろうと、俺は想像する。
なんにせよまず俺は、こいつの力量を越えていかなくちゃいけないわけだ。
データベースの設計でも画面設計でも、彼が整然性を最重視するタイプだということは、彼を知らずともこの年代物のシステムから伝わってくる。
だが、経験はおれほどじゃない。
いや、ちがうな。
どのスキルを取ってみても、俺が負ける要素はひとつもないと断言できる。
・・・そう、断言できるのだ。
彼とは、10年前の俺のことだ。
当時の俺に見えなかったことが、今はとってもクリアに見通せる。
(その理由はわからないが。)
まさか、油断をしているのだろうか。
いや。
残業はしているが油断はしていない。
まずはこのプロジェクトを成功裏に終わらせることだ。
その後、この歳月が俺に与えてくれた熟成という名の成長を、10年物のスコッチと一緒に噛み締めたいと思う。